私がデザイナーとして、とある印刷会社のデザイン部に就職したのは2003年。
当時私が勤めていた会社の主な業務は、大手量販店に陳列する販促POPや下着類のパッケージのデザイン制作。それを中国の印刷工場で印刷、現地の縫製工場に納品し、商品をパッケージに詰めるなどの作業を済ませ、主に船(Ship)で日本の各センターに納品、そこから店舗に陳列するという流れでした。
多い時で1日に6点ほど制作が必要な案件があったので、年間にすると(約230日計算)点数にしておよそ1,400近いデザインを制作していたことになります。今考えると恐ろしい数字です。
1年で約1,400点も制作が必要だと、間違いなく日々多忙です。多忙ではない会社なんてないと思いますが、私も「全然帰れない」日々を過ごしておりました。
新人の頃には、洋服の裏側にくっついている洗濯表示のアレ(ナイロン地のペラペラしたやつ)の制作も担当していたので、一番忙しい時には、一体何を作っているのか、自分でもよくわからないくらい混乱していたのを覚えていますが、今ではいい思い出です。
さて、年間でこれだけの数の依頼があると、新卒のデザイナーにも即戦力が求められ、私も例外に漏れず、比較的難易度の優しい制作を入社1日目から徹底的に作らされました。
得意先の業界はとにかく変化の早い業界なので、悠長にオリエン・ヒアリング・プレゼン・検討なんてしている場合ではありません。
かと言って、商品化されるものを作っているわけですからヘンテコなクオリティのものを提出しているわけにもいきません。
とにかく、良いクオリティのものを、がーっと作って、ドンと出して、サッと決めてもらう。
毎日このサイクルを乱すわけにはいきませんでした。
とは言っても、つい先月までただの専門学校の学生だった私が、量販店といえどもいきなり実店舗に並ぶにふさわしいクオリティを出すことはかなり困難。
「全然ダメだな」「これじゃ出せないよ」と何度も言われ続けましたし、1日の制作ノルマをクリアできなくとも、次の日に出社すれば、またその日に制作しなければいけない案件がプラスされてくるという、1日の制作をクリアできないと地獄の雪だるま式制作加算システムでした。
「やべー。どうしよう・・・。このままだと最後は雪だるまが爆発してしまう・・・」
当時質問をすることすら気をすり減らしていた私は、入社2週間ほど経った時にもう↑この状態になっており、ついに苦肉の索を編み出しました。
それは「既に製品化されているパッケージのデザインを真似すること」でした。
夜な夜な製品サンプルのコーナーから、これかっこいいな(と言っても所詮量販店向けですが)と思ったデザイン、先輩が作った過去の制作サンプルコーナーから何点か見繕い、それを自分のデスクに置いて、徹底的に真似をしました。
下手だったので徹底的に真似をした
その真似具合を今お話するのは恥ずかしいのですが、とにかくクオリティの高い制作をする必要があったので、とにかく徹底的に真似をしました。
今では頭に入っていますけれど、
この文字は実物にすると何センチなのか、
このマークはどうやって作っているのか、
どの文字がどんな書体でどんな置き方をすれば目立つのか、
どの写真を選べばセンス良く見えるのか、
定規で文字の大きさを測ったり、一つづつパーツを作ったりしながら、地味〜な作業を繰り返し、サンプルとそっくりなパッケージを作り先輩にチェックしてもらうと、こんなことを言われました。
「あれ、急に良くなったじゃん。真似した?」
「はい。真似しました・・・。」
「いいね!これちょっとココの色変えて出そう」
「あ、はい、あのぅ・・・・」
「なんだよ?」
「真似なんかしてよかったでしょうか?・・・すみません、自分でいいのが作れなくて・・・」
「いいよ、“まねるはまなぶ”だからね。もちろん全部一緒だとダメだけどね。そのうちやり方が自分のオリジナリティが出るからね。ま、出ねーヤツはダメだけどね」
真似をすることでしばかれるかもしれないと少し思っていましたが、それどころか「下手なキミはそのやり方でも良い」と言われたことに少々驚きながらも(だったら最初から言ってくれと思いながらも)雪だるまから脱出するいい方法を見つけてほっとした気持ちになりました。
さらに先輩からこんな風に言われました。
「ニシさん、何でデザイナーになる時に絵を描くことや、スケッチが上手だと有利か知ってる?」
「わ・分かりません・・・イラストが描けるから、でしょうか?」
「違う。まあそれもあるけど。もっと違う理由がある。
それは、スケッチが上手な人は、対象物をキャンバスにそっくりに描けるということ。模写する能力、つまり真似できる能力が高いってことだよ。真似する技術が高いということは、色んな表現を真似して、自分の力にしていける能力が高いということ。だから有利なの。分かる?」
「はあ、何となく」
「だからね。絵が得意じゃない人は、とにかく真似することだよ。自分のオリジナリティはそれからだからね。」
「はあ、はい」
なので下手だった私は、とにかく真似をするところから制作を作ることにしました。
休みの日に量販店やドラッグストアに行って、パッケージの写真をこっそり携帯電話のカメラで撮影し、それを会社のプリンターで印刷し、自分だけの参考ファイルを作りそれを社内でも共有するようにしました。
それを繰り返すうちに、実制作をする時、だんだん勝手にキャッチコピーを考えたりするようになりました。
どうやったら店に並んだ時にお客さんに伝わる表現になるだろうか・・・、こっちの方がいいんちゃうかー、このマ○キヨで見つけたパッケージの表現いいなーという具合に。
今思えば、これが私の強みの一つになったとも思いますが、元はと言えば真似することから全てはスタートしたということです。
建築家の安藤忠雄先生だって、最初は真似をしていた
日本、いや世界を代表する建築家・安藤忠雄先生は、毎日15時間以上、独学で建築を学ばれたそうですが、
その時安藤先生は、スイス生まれ・フランスで活躍されていたル・コリュビジエの建築に魅了され、コリュビジエの建築設計を見てずっと真似して自分で描き、遂に最後には何も見ずに設計図を描けるほどになったそうです。
何も見ずに描くことができるなんて、すごいことです。
デザイナーになる前に通った専門学校でコピーライティングを教えてくれた先生の最初の授業でも、全く同じことを言われたのを覚えています。
先生「あんたら、デザイナーになりたいんだったら、誰か憧れのデザイナーの人はいるの?」
みんな「・・・・」
先生「それ、おかしくないか。小学生だって野球選手やサッカー選手になりたいと言っている子は、憧れの選手の名前を言える。こういう人になりたいと思える人を見つけて真似をしなさいよ」
真似をする、なんて聞こえの悪いことかもしれません。
でももし、上手くできない、上手く作れない、もっと上手くなりたいと思う時は、自分のなりたい人のことを真似することが自分の学びにつながるこだと、それが自分の強みなり結果が後からついてくる、私は確信しています。
技術でも生き方でも、いつでも常に憧れの人を持ち続けたいですね。
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